「朝ドラ」という超長編のコンテンツフォーマットに垣間見える、映画にはない可能性

ビジネスマンには「朝ドラ」を見る余裕やモチベーションがないことが多いのではないでしょうか。

放送時間帯もさることながら、150話を超えるその超長編ぶりは他の追随を許しません。1話あたり13分が本編とすると約2,000分、約33時間、長めの映画17本分くらいに相当することになります。

その長さや年寄り臭いイメージから私もなんとなく敬遠していたのですが、huluをながらで見るようになって、ものは試しで手を出してみました。

「超長編」を活かした特有のストーリー構成

朝ドラに共通しているのは、50年〜80年くらいの時間軸で「人の一生を描く」という点です。

多くが戦前から始まり、戦中の悲惨な時代を乗り越えて、戦後の復興、現代へと移ろいます。その時間軸の中で、子どもが生まれ、祖父母が亡くなり、孫が生まれ、父母が亡くなるという、避けられない家族のドラマが描かれます。よくあるB級映画とは違って、不自然なアクシデントや殺人事件が起きなくとも、人が死に、その死を残された人たちがそれぞれに解釈しながら生きていくというストーリーが無理なく描かれるのです。脚色を必要としない圧倒的なリアリティで視聴者の心を掴みます。

事業の栄枯盛衰も話中では目のあたりにすることになります。例えば『ゲゲゲの女房』では、紙芝居という商売が成立しなくなり、貸本屋という商売が成立しなくなっていく中で、それらの商売に思い入れのある登場人物たちがどうにか再建を志しながらも、大きな潮流の中に飲まれていく様子が描かれています。

たったの過去50年でこれだけの変遷があったことを考えると、これからの50年を私たちはどう振る舞えば良いのか、歴史的な示唆に富んだ内容になっています。

これは2時間映画や10話そこそこで終わる民放のドラマには真似できないやり方です。

NHKにしか取れないハイリスクのコンテンツフォーマット

「朝ドラの撮影が大変」という話は出演者の誰もが口にするくらいの勢いで、業界内でも恐れられているようです。そもそもの本編の長さに加えて、そのクオリティへのこだわりは見ていても伝わってくるほどです。映画ほどのクオリティではもちろんないにしても、尺的に映画17本分に相当する朝ドラの制作費は相当のものものになるでしょう。

またそもそも2,000分の枠(朝夕やダイジェスト版も足すと5,000分の枠!)をあらかじめ確保しておいて、ヒットしなかったときどうするのかというリスクテイクを、NHKを除いた他の民放が取ることはできないでしょう。ただでさえヒットしている漫画や小説といった原作を引っ張ってきてリスクヘッジする傾向に拍車がかかっているのだから…。

実際の平均視聴率はというと、2,005年以降は最低でも13.5%(ウェルかめ)、最高は23.5%(あさが来た)と、他の朝の情報番組が「9%取れたらすごい」と騒いでいる中で文字通り桁の違うパフォーマンスを維持しています。

コンテンツのフォーマットレベルで差別化ができてしまっているので、このマーケットはNHKの独壇場と言い換えても良さそうです。

近いフォーマットは連載漫画

朝ドラに最も近いフォーマットとして漫画が挙げられます。ロングランとなると2017年6月時点でHUNTER×HUNTER34巻、進撃の巨人23巻、ONE PIECE86巻が最新刊で、それぞれまだ収束の気配を見せていません。

2時間で起承転結と感動を生むことを求められる映画というフォーマットと比較すると、自由度が高く、シナリオのオプションが高いところは共通しています。

  • 人気投票を勝ち抜くという短期目標をクリアする必要がある
  • 最終話がいつになるのか読みにくいためプロットを立てにくい

という2点は大きく異なり、かつ朝ドラには朝ドラらしさが求められるため厳密には色々と制約条件が異なるのですが、長さゆえに登場人物に湧いてくる愛着には通ずるものがあります。

長い作品には特有の良さがあります。ここを深掘りすると、商業都合で尺の決まっていたドラマや映画に新天地が開けてくるのではないかという気がします。

漫画というフォーマットが好きな皆さん、ぜひhuluで朝ドラにもトライしてみてください。

株式会社ニューロープ 代表取締役。

ファッションに特化した人工知能『#CBK scnnr(カブキスキャナ)』、インスタグラマーの類似アイテムを買える『#CBK』、アートメディア『ART LOVER』、メディアやブログを簡単にマンガ化できる『AI-CATCHER』などを展開。

九州大学芸術工学部で芸術と工学を学ぶ。中小企業診断士。